スペル/サム・ライミ監督(2009・米)

そのサム・ライミも、スパイダーマンのシリーズなどを手がけ、いまや売れっ子監督の仲間入りを果たしているが、久々にホラー映画に里帰りしたことで話題となった『スペル』は、銀行に勤めるヒロインの受難の物語だ。融資担当のアリソン・ローマンは、ローン返済の延期を求めて銀行にやってきた老婆ローナ・レイヴァーに逆恨みされ、不気味な呪いを掛けられてしまう。次々襲いかかってくる不可解な現象を、呪いなど信じない婚約者のジャスティン・ロングは鼻から取り合おうとしないが、霊視者のディリープ・ラオは彼女にとり憑いた悪霊の邪悪さにたじろぎ、乞われてひとりの霊能者を紹介する。
呪いテーマの定石のような展開を遂げていくストーリーだが、全体を包み込む雰囲気は不思議と陽性。ヒロインにふりかかる災難も、突如鼻血を吹き出したり、老婆から大量の唾液を浴びせられたりと、ほとんどギャグの世界だ。中盤の悪霊祓いの儀式が冒頭に置かれたエピソードと繋がり、一瞬ホラー度は高まるが、間もなく生き残る術を悟った主人公は、吹っ切れたように行動に転じる。そこからの展開は、ちょっと意地悪な監督のほくそ笑みがのぞく幕切れまで抱腹絶倒で、退屈する間がない。ミステリ的な趣向にはいまひとつ乏しいが、「死霊のはらわた」の続編を楽しんだ映画ファンなら、期待を裏切られないだろう。
日本推理作家協会報2009年12月号]
》》》公式サイトhttp://spell.gaga.ne.jp/index.html
●本国版予告編