シークレット/ユン・ジェグ監督(2010・韓)

昨年のミステリ映画で、とりわけ強い印象を残した韓国映画の『セブンデイズ』については以前も書いているが、そのオリジナル脚本を担当したユン・ジェグが初めて監督した作品が『シークレット』である。主人公のチャ・スンウォンは、酔っ払い運転で事故を起こし、隣に乗せていた愛娘を死なせた過去を背負う刑事だ。犯罪組織を牛耳る悪党リュ・スンニョンの弟が殺され、主人公が殺人現場に駆けつけると、そこには自分の妻であるソン・ユナが訪れた痕跡が残されていた。咄嗟に、落ちていたイヤリングとボタンを回収し、妻の口紅の跡が残るワイングラスも、同僚のパク・ウォンサンとの喧嘩を装い、証拠の隠滅をはかる主人公。妻が犯人なのかという疑心暗鬼に駆られるが、やがて証拠を握っているという謎の人物が、奇妙な取り引きを持ちかけてくる。
『セブンデイズ』の脚本家だけあって、冒頭から読者を煙に巻く手管は実に鮮やか。刑事、その妻、犯罪組織のボス。それぞれの思惑が交錯し、迷宮のような物語が繰り広げられていく。『セブンデイズ』と同様に、話を作り過ぎというそしりもあるだろうが、観客の意表をつくには、これくらいの無理は許されるだろう。ただし、主人公の刑事自身の秘密については、それが冒頭のシークエンスで薄々判ってしまい、終盤でのインパクトがいまひとつ。そのため、ラストクレジットの途中にワンシーンを差し挟むアイデアが、いわずもがなに終わっているのが惜しまれる。 
日本推理作家協会報2010年9月号]
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