人生に乾杯!/ガーボル・ロホニ監督(2007・洪)

この作品を取り上げたのはこじつけに非ず。ハンガリーからやってきたガーボル・ロホニ監督の『人生に乾杯!』は、立派なミステリ映画である。五十年間連れ添ったエミル・ケレシュとその妻テリ・フェルディだが、何かと物入りの昨今、収入が年金だけとあっては、生活は困窮するばかり。そんなある日、エミルは妻に内緒で郵便局の窓口で現金強奪に手を染めてしまう。八十一歳の銀行強盗とニュースが流れ、妻のテリは驚くが、警察の裏をかいて彼女も合流。先々で銀行や宝石店を襲いながらのふたりの旅が始まる。カップルを主人公にしたロードムービーとして、ボニーとクライドの「俺たちに明日はない」を例にひくと嘘っぽく思う向きもあるだろうが、ほのかなユーモアが漂う点を除けば、無軌道な犯罪者の道行きに焦点を合わせた両者は、意外なほどにシンクロする。年金生活者の困窮という社会問題を告発する一面もあるにはあるが、警察との追いつ追われつの面白さは、最後の最後まで目が離せない。ナンシー・シナトラ似の美人刑事ユディト・シェルと夫で相棒のゾルターン・シュミエドのコンビもいい味を出している。序盤と終盤にインサートされる回想シーンのひとコマが、実にロマンチックな味わいを醸し出していて、素晴らしい。
日本推理作家協会報2009年7月号]
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