2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

蝶の夢 乱神館記/水天一色(講談社)

非英語圏のミステリが注目を集める昨今だが、われわれ日本の読者にとってまさに灯台下暗しなのは、東アジアのミステリ事情だろう。そんな近隣諸国にスポットをあてる島田荘司選の〈アジア本格リーグ〉だが、台湾、タイ、韓国ときて第四巻は中国からの登場と…

祖国なき男/ジェフリー・ハウスホールド(創元推理文庫)

この作品を出すための伏線だったか、と思い出したのは七年前の「追われる男」のリバイバルだ。ジェフリー・ハウスホールドの『祖国なき男』は、前作から四十三年後に書かれたその続編である。ヒトラーの暗殺に失敗し、母国のイギリスに逃れた主人公の苦難を描…

レースリーダー/ブルノニア・バリー(ヴィレッジブックス)

魔女伝説でおなじみのマサチューセッツ州セーラムの町を舞台に、ファンタスティックなミステリを書き上げたのは、アメリカから登場したブルノニア・バリーだ。彼女の処女作『レースリーダー』は、レースの編み目から未来を読み取るという不思議な能力を代々…

プロフェショナル/ロバート・B・パーカー(早川書房)

先日訃報が届けられたロバート・B・パーカーだが、前作『灰色の嵐』で復活を思わせる充実ぶりに感心させられたばかりだった。『プロフェショナル』は、そんなシリーズの最新作であり、37番目の新作だが、もしかしたら最後のスペンサーものとなるかもしれない…

チャイナ・レイク/メグ・ガーディナー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

エドガー賞とひと口に言っても、さまざまな部門賞があることはすでにご承知のとおりだが、その中でペイパーバック賞は、対象がペイパーバック・オリジナルなので、長篇賞からはやや格落ちにうつるかもしれない。しかし過去の受賞者には、ウィリアム・デアン…

ヨークシャー4部作が着々と映像化

デイヴィッド・ピースのヨークシャー・リッパーを主題にした4部作が、イギリスのチャンネル4でテレビドラマ化されています。4作の原作は、シリーズとして3部作に再構成されたらしく、イギリス本国では昨年の3月にオンエア、好評だったようです。 その後、ア…

壊れやすいもの/ニール・ゲイマン(角川書店)

めでたく二月にヘンリー・セリックが3Dのクレイ・アニメーションとして手がけた映画「コララインとボタンの魔女」の日本公開も決まったニール・ゲイマンの短篇集『壊れやすいもの』。ゲイマンはSFやファンタジー方面の人、という先入観を持つ向きも多い…

2009年の闘うベストテン

恒例のミステリチャンネル「闘うベストテン」の結果は以下のとおりです。今年から、米ケーブルテレビ局のAXN傘下となってリニューアルされ、「第1回AXNミステリー闘うベストテン」となりました。選者は、豊崎由美、香山二三郎、大森望、杉江松恋、石井千湖…

壁に書かれた預言/ヴァル・マクダーミド(集英社文庫)

イギリスの文壇では、ショートストーリーという形式は絶滅危惧種と言われており、危機を唱える作家たちによるキャンペーンも行われているという。『殺しの儀式』で英国推理作家協会(CWA)からゴールドガダー賞を授けられているヴァル・マクダーミドも、その…

紫雲の怪/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

ロバート・ファン・ヒューリックが七世紀唐の国に実在したと言われるディー判事をモデルに描くシリーズも、未紹介長編のお蔵出しとしては、この『紫雲の怪』がいよいよ最後になるという。時系列では、「中国迷宮殺人事件」の半年後の物語。西の辺境、蘭坊の…

白夫人の幻/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

ロバート・ファン・ヒューリックのディー判事シリーズを地道に紹介してくれる〈ハヤカワ・ミステリ〉だが、『白夫人の幻』で八冊を数える。今回は、勇壮なボートレースで幕をあける。龍船競争と呼ばれるそのレースは、藩陽の町で端午の節句を祝って催される…

五色の雲/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

ポケミスのお陰で、再びロバート・ファン・ヒューリックの評価が、静かに、しかし確実に高まってきているのが嬉しい。『五色の雲』は、ディー判事ものを八篇収めている。 表題作は、ディー判事が公職につき、初めて赴任した先である東海のほとり、平来(ぽん…

紅楼の悪夢/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

ここのところ、新訳が出るたびに、本欄で欠かさずに取り上げているロバート・ファン・ヒューリックである。一読者としては、このディー判事シリーズの現在のひどい絶版、品切れ状況はまことに嘆かわしく*1、出来ることなら版元、版型を揃えて、シリーズ一冊…

観月の宴/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

あちこちの出版社から断続的に紹介されてきたヒューリックだけれど、ここのところポケミスが、その紹介の虫食いを埋めるような形で未訳作品を刊行してくれており*1、密かに声援を送っている。今回の『観月の宴』は、先にポケミスに収録された「真珠の首飾り…

雷鳴の夜/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

ロバート・ファン・ヒューリックの「真珠の首飾り」が、突然紹介されたのが、2001年の初め。ずいぶんと懐かしい思いに浸らせてもらったが、やや時間をおいて同じシリーズの『雷鳴の夜』が出た。*1どうやら、ポケミスはディー判事ものをシリーズものとして継…

イングロリアス・バスターズ/クエンティン・タランティーノ監督(2009・米)

七十年代イタリア産マカロニ戦争映画(「地獄のバスターズ」)のリメイクとも伝えられたクエンティン・タランティーノの新作『イングロリアス・バスターズ』だが、当然のことながら話はそんな単純じゃない。原典映画との関係は、せいぜいリスペクトどまり。第…

スペル/サム・ライミ監督(2009・米)

そのサム・ライミも、スパイダーマンのシリーズなどを手がけ、いまや売れっ子監督の仲間入りを果たしているが、久々にホラー映画に里帰りしたことで話題となった『スペル』は、銀行に勤めるヒロインの受難の物語だ。融資担当のアリソン・ローマンは、ローン…

母なる証明/ポン・ジュノ監督(2009・韓)

「殺人の追憶」で、映画ファンだけでなくミステリ・ファンをも唸らせたポン・ジュノ監督の最新作。いや、厳密にいえば、「殺人の追憶」は、ミステリ映画とも違うのだが、エンドマーク近くの足元をすくわれる感じは、やはりいいミステリのカタルシスにも通じるも…

ロンドン・ブールヴァード/ケン・ブルーエン(新潮文庫)

出版社間の作家名表記のブレが、レヘイン=ルヘイン事件(?)をいやでも思い出させるケン・ブルーエン。(著者サイドに確認したという注記があるので、とりあえずは納得だが)『ロンドン・ブールヴァード』は、すでにおなじみの酔いどれ私立ジャック・テイ…