祖国なき男/ジェフリー・ハウスホールド(創元推理文庫)

この作品を出すための伏線だったか、と思い出したのは七年前の「追われる男」のリバイバルだ。ジェフリー・ハウスホールドの『祖国なき男』は、前作から四十三年後に書かれたその続編である。ヒトラーの暗殺に失敗し、母国のイギリスに逃れた主人公の苦難を描いたのが前作だったが、本作はその三年後から物語は始まる。ドイツに再び潜入しながらも、英独開戦によってまたもや暗殺計画を断念しなければならなくなった主人公は、決死の覚悟でヨーロッパ横断の旅に出発し、祖国をめざす。
冒険小説のオールドタイマーとして凛々しさをたたえた作風に変化はなく、一期一会の出会いのドラマが主人公を待ち受ける。ジョンブル魂溢れるワンマンアーミーとしての戦いぶりもなかなかだが、タイトルにこめられた主人公の悲嘆と哀切が胸をうつラストが鮮烈だ。
[本の雑誌2010年2月号]

祖国なき男 (創元推理文庫)

祖国なき男 (創元推理文庫)