観月の宴/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

あちこちの出版社から断続的に紹介されてきたヒューリックだけれど、ここのところポケミスが、その紹介の虫食いを埋めるような形で未訳作品を刊行してくれており*1、密かに声援を送っている。今回の『観月の宴』は、先にポケミスに収録された「真珠の首飾り」と、名作の誉れ高き「中国迷路殺人事件」の間の作品で、作家としての充実期に書かれている。
ディー判事は、出張の帰途、友人である金華県知事のルオから、彼が主催する中秋節の晩餐会に出席を乞われる。だが、宴を前にして町中で殺人事件が発生。さらには、晩餐のさ中、若く野心家の舞妓が何者かに惨殺される。ディーは、二つの事件の関係を見抜き、こみいった関係者の人間関係とその過去を解きほぐしていく。
このシリーズの読みどころとして、ふんだんに盛り込まれた唐代の史実や風俗は外せないところだろう。ヒューリックの中国史に関する知識は半端なものではなく、シリーズの歴史小説として堂々たる風格は、まさに作者の博学ぶりに由来する。
しかし、もうひとつ見逃してはならないのは、本シリーズが毎回非常に高いテンションの謎解きを主題に据えていることだろう。本作においても、非常に密度の高く複雑な謎があり、快刀乱麻を断つごとくの明快さをもって主人公がそれを解き明かす。まさに、ミステリの本懐に相応しい謎解きの快感を読者に提供するのである。
[本の雑誌2004年3月号]

観月の宴 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

観月の宴 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

*1:これが後にシリーズ全作品紹介に繋がった。