キューバ・リブレ/エルモア・レナード(小学館文庫)

エルモア・レナードの『キューバ・リブレ』は、十九世紀末のスペイン統治下のキューバが舞台。カウボーイのベンは、ニューオーリンズ生れの前科者だ。旧知の牧童頭の手引きで、内戦状態のキューバで一儲けをしようと、数十頭もの馬を引き連れ、かの国へと海を渡る。しかし、折悪しくアメリカの戦艦メイン号がハバナ港で爆破される事件が起きる。その余波もあってか、商談は不成立。買い手になる筈だった砂糖農園の経営者ブドローに、鼻先であしらわれてしまう。
悪いことは重なるもので、ベンは通りがかりに馬の売買を巡っていざこざを起こした治安警察隊の将校から決闘を申し込まれ、一度はいなしたものの、再会したホテルで相手を撃ち殺し、逮捕されてしまう。先の爆破事件で沈んだ戦艦の乗組員だった海兵隊員とともに幽閉され、死を待つばかりとなったベンだったが、そんな彼を救出に向かう男女のグループがあった。
独特の切れ味から遠ざかった印象のある近年のレナードだが、本作はいい。主人公が6だとすると、敵役にも4の分を与え、その危うい平衡状態の中で、作者は男たちの物語を繰り広げる。いや、男ばかりか女もなかなか素敵で、主人公に密かに思いを寄せるブドローの情婦アメリアが、キーパースンとして大活躍。とりわけ、誘拐の身代金をめぐる中盤以降の先の読めない展開は、饒舌でオフビートなレナードの語りの術に唸らされること必定だ。
[ミステリマガジン2008年2月号]

キューバ・リブレ (小学館文庫)

キューバ・リブレ (小学館文庫)