愚者が出てくる、城寨が見える/ジャン=パトリック・マンシェット(光文社古典文庫)

精神病院を出たばかりのヒロインと、とち狂ったギャングの一団が、くんずほぐれつの追いかけっこを繰り広げる『愚者が出てくる、城寨が見える』は、ジャン=パトリック・マンシェットの代表作と言われる「狼が来る、城へ逃げろ」の新訳版だ。篤志家の企業主に雇われ、生意気な子どもの乳母役の仕事についたジュリー。しかし誘拐を請け負ったギャング団の手に落ち、子どもとともに連れ去られてしまう。隙をみて逃走した彼女は、子どもの手を引き、雇い主の親友だった男が棲む隠れ家を目指すが。
静謐と喧騒が渾然一体となった物語の中で、行間から立ち昇る暴力衝動が次第にエスカレートしていく。それをヒリヒリするようなストイックかつクールな文体で描き出し、フランス推理小説大賞にも輝いたのが、マンシェットの本作だ。今回の新訳を機に、この犯罪小説の傑作に充満する危険な空気を、マンシェットを初めて知る読者にも堪能してほしいと思う。
本の雑誌2009年3月号]

愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える (光文社古典新訳文庫)

愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える (光文社古典新訳文庫)