謀略法廷/ジョン・グリシャム(新潮文庫)

ジョン・グリシャムは、新作の『謀略法廷』でも、いまだ衰えない社会派としての意欲をうかがわせる。農薬工場が引き起こした水質汚染をめぐる公害訴訟で原告側に立った弁護士夫妻は、私財をなげうち、やっとのことで勝訴に漕ぎ着けた。しかし、被告の企業側は州最高裁へ上訴、原告らの意表をつく悪辣な手段で判決の逆転を狙ってくる。
ちょっと露骨なくらいに善玉と悪玉の色分けがあって、序盤はやや白っとした気分にさせられるが、両者の対決が法廷の場ではなく、裁判官の選挙をめぐってのものにスライドしていくあたりから、俄然面白くなってくる。すでに喧伝されているアメリカの選挙ビジネスについてはいまさらじゃないが、選挙戦のダーティな内幕や勝敗をめぐる緊張感あふれる展開は読み応え十分。待ち受けるアンチクライマックスに、司法の現状に対する作者の憂いが見て取れるようだ。
本の雑誌2009年8月号]

謀略法廷〈上〉 (新潮文庫)

謀略法廷〈上〉 (新潮文庫)

謀略法廷〈下〉 (新潮文庫)

謀略法廷〈下〉 (新潮文庫)