最後の審判/リチャード・ノース・パタースン(新潮文庫)

法曹界出身という点では、グリシャムよりも遥かにデビューが早いリチャード・ノース・パタースン(「ラスコの死角」でエドガー賞の新人をとったのは80年のこと)だが、ひと頃パタースンには小説から離れていた時期がある。惓土重来を期したわけではないのだろうが、その間にブームを巻き起こしたグリシャムの活躍に大きな刺激を受けたことは、まだ記憶に新しい。
最後の審判』は、帯のコピー*1を見ると、その再デビュー作だった「罪の段階」に始まる三部作の完結編とあるけれども、しかしこの作品にお馴染みのクリストファ・パジェットは登場しない。だが、熱心な読者なら、本作の主人公キャロライン・マスターズが、これまでのパタースン作品で脇を固めていたお馴染みの人物であることに気づくだろう。
地域裁判所の判事、被告弁護人と法曹界を歩んできたキャロラインに連邦控訴裁判所判事に指名されるという話が持ち上がった。そんな折、彼女の姪に殺人の容疑がかけられるという事件が起きる。千載一遇のチャンスと家族への愛の間でゆれるキャロラインだったが、姪の弁護を引き受ける決心をし、予審の準備を始める。しかし、事件の背景には彼女が予想だにしない真犯人が身を潜めていた。
これまでのニ作とは、やや毛色が異なる。波乱に富んだ法廷劇はやや後退し、主人公の過去と現在を行き来しながら、主人公の内省的な人間ドラマにスポットがあてられている。とはいえ、ミステリ的な興味から眺めても、相変わらず冴えたものがあり、面白さにおいてはこれまでの作品とまったく遜色のない仕上がりといえる。本作の主人公が大活躍するという次の作品が待ち遠しい。
[本の雑誌2003年1月号]

最後の審判〈上〉 (新潮文庫)

最後の審判〈上〉 (新潮文庫)

最後の審判〈下〉 (新潮文庫)

最後の審判〈下〉 (新潮文庫)

*1:初刊時ハードカバーの帯のこと