最終弁護/スコット・ブラット(ハヤカワミステリ文庫)

どっかで見たような邦題はちょっと頂けないが、(原題はAn Innocent Client)スコット・プラットの『最終弁護』は、法廷ものとして、いい具合に肩の力が抜けている。気持ちよくページをめくることができるという点で、ディヴィッド・ローゼンフェルトの「弁護士は奇策で勝負する」の軽妙さが思い出されるが、内容的にはもっとカジュアルで、家族小説の一面もある。それでいて興味深いテーマを扱っているのだから、リーガルものの書き手として大いに注目していいと思う。
伝道集会で説教をするためにはるばるやってきた尊師が、めった刺しにされた挙句に、局部を切断された死体で見つかった。最後に彼が立ち寄った町のストリップ・クラブで働く美しい女性エンジェルが逮捕され、主人公のディラードに弁護の依頼が舞い込む。近く廃業を予定していたが、吹っかけた高額の報酬があっさりと受けいれられたことから弁護を引き受けたディラードは、エンジェルの純真さにほだされ、依頼人の無実を確信する。しかし、彼の弁護は思わぬ形で暗礁に乗り上げてしまう。
欺瞞に満ちた法廷でのやりとりに飽き飽きし、弁護士稼業から早く足を洗いたいと思っている主人公像もユニークだが、法曹界の力関係に屈せず、判事らにきちんと物申すスタンスには率直に共感をおぼえる。真の正義を実現するために主人公がとる策はほとんど反則技だが、不思議と違和感はない。肉親との確執や被害者家族からの逆恨みまで買って、四面楚歌の状況におかれる主人公が、苦しみながらそれでも前進していく姿に拍手を送りたくなる。
[ミステリマガジン2009年6月号]

最終弁護 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

最終弁護 (ハヤカワ・ミステリ文庫)