2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

シャーロック・ホームズ/ガイ・リッチー監督(2009/米)

おそらくは、ミステリ・ファンの誰もが「イメージが違う」と感じたに違いないロバート・ダウニー・Jrとジュード・ロウが演じるホームズ・ワトスンのコンビ。しかし、そんな下馬評をよそに、映画『シャーロック・ホームズ』はなかなかの出来映えだったと思う…

風船を売る男/シャーロット・アームストロング(創元推理文庫)

シャーロット・アームストロングは、エドガー賞を受賞した『毒薬の小壜』に代表されるように、市井の一員たる登場人物が事件に巻き込まれ、翻弄されるというパターンを得意とするアメリカの女性作家で、六十年代末に没するまでに三十冊近くの作品を世に送っ…

夜の試写会/S・J・ローザン(創元推理文庫)

主役を交替しながら年一作のペースで巻を重ねていたのに、新作がぱったりと途絶えてしまったS・J・ローザンのリディア・チンとビル・スミスのシリーズ。そのわけは、八作目の『冬そして夜』でシリーズが到達点ともいうべき高みに達してしまったせいに違い…

エコー・パーク/マイクル・コナリー(講談社文庫)

警察小説、ハードボイルド、ノワール、サイコスリラー、本格ものと、その持ち味をひと口に語りきれないマイクル・コナリーの作品だが、ハリー・ボッシュのシリーズを中心として枝葉を広げた登場人物のファミリー・ツリーからは、一種の大河ドラマの面白さも…

沼地の記憶/トマス・H・クック(文春文庫)

二年半ぶりに届けられたトマス・H・クックの新作『沼地の記憶』は、若き日の愚かな罪に対するひとりの男の悔恨の物語である。回想と裁判の記録から浮かび上がってくるのは、高校教師として教え子たちに接した主人公の若き日々で、殺人犯の息子とレッテルを…

ラスト・チャイルド/ジョン・ハート(ハヤカワ・ミステリ、ハヤカワ文庫)

デビュー作の「キングの死」、続く「川は静かに流れ」と、親と子の関係を主題に、テーマの咀嚼力と物語の力を見せつけたジョン・ハートの待ちに待った三作目は『ラスト・チャイルド』という作品だ。一年前に何者かに連れ去られ、行方不明となった妹のアリッ…

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話/ダニエル・ウォレス(武田ランダムハウスジャパン)

『ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話』は、「ビッグ・フィッシュ」でおなじみダニエル・ウォレスの待望久しい新作である。落ちぶれ果てた魔術師ヘンリーが、流浪の果てにたどり着いた寂れたサーカス団。そこで彼は忽然と姿を消してしまう。 …

カストロ謀殺指令/デイヴィッド・L・ロビンズ(新潮文庫)

大学教授でありながら専門が歴史学の暗殺史だったことから、ルーズベルト暗殺という歴史の舞台裏に引きずり込まれてしまった前作から十六年、ラメック教授が再び登場するデイヴィッド・L・ロビンズの『カストロ謀殺指令』である。アメリカに反旗を掲げ、キ…

サベイランス/ジェニファー・リンチ監督(2008・加)

さまざまな風評を呼んだ「ボクシング・ヘレナ」から十五年、ジェニファー・リンチの監督復帰作は『サベイランス』というサイコスリラーだ。サンタ・フェの田舎町で起きた無差別殺人は、カップル、休暇に向う親子、警察官ら五人が犠牲になり、FBIが捜査に乗り…

運命のボタン/リチャード・マシスン(ハヤカワ文庫)

キャメロン・ディアス主演の映画の日本公開にあわせ、その原作を表題作としたリチャード・マシスンの日本オリジナル作品集『運命のボタン』が出た。おりしも、マシスン・トリビュートの書き下ろしアンソロジー「ヒー・イズ・レジェンド」(レビューは次号)…

パーフェクト・ゲッタウェイ/デヴィッド・トゥーヒー監督(2009・米)

「容疑者6人、犯人2人」という煽りのコピーがTVスポットでも流れた『パーフェクト・ゲッタウェイ』は、先月の「フォース・カインド」に続いてミラ・ジョヴォヴィッチが主演している。新婚カップルを殺害し、指名手配となったふたりの殺人犯のニュースが流れ…

死者の名を読み上げよ/イアン・ランキン(ハヤカワ・ミステリ)

章割りに凝ったこういう作品こそ、章題がひと目で見渡せる目次のページがほしいところ。イアン・ランキンの『死者の名を読み上げよ』は、アナログのレコード盤に譬えて、全体をサイド1からサイド4までの四章仕立てとし、作中でフーの「四重人格」を繰り返…