ピグマリオンの冷笑/ステファニー・ピントフ(ハヤカワ文庫)

エドガー賞の新人賞受賞者のステファニー・ピントフは、早くも第二作の『ピグマリオンの冷笑』が紹介されている。デビュー作の『邪悪』に引き続き、二十世紀初頭のニューヨークを舞台に、刑事のサイモン・ジールとアマチュアの犯罪学者のアリステア・シンクレアが再びコンビを組む。
多くの劇場でにぎわうブロードウェイで、美しいコーラスガールが相次ぎ犠牲にとなる連続殺人事件が起きる。現場には、奇妙な手書きのメッセージが残されていた。容疑者としてひとりの俳優が捜査線上に浮かぶが、犯人逮捕の決め手を欠く警察は、手をこまねくばかり。そうこうするうちに、今度は女優が殺される第三の事件が起き、現場に駆けつけた捜査官も巻き添えをくってしまう。十九分署の署長から直々に捜査への協力を要請されたものの、次第にエスカレートする犯行に手を焼くジール刑事は、先の事件で袂を分かった犯罪学者のシンクレアに、やむなく相談を持ちかける。
克明な時代風俗や科学捜査の黎明期を描く面白さ、さらにはテーマの深遠なところを賞賛したデビュー作だが、本作もその一つ一つの水準の高さは維持されていると思う。とりわけ冒頭のエピソードに繋がる主題は興味深いものがあり、この作者はやはり只者ではないと思わせる。しかし一方で、主人公の刑事に魅力に乏しい点や、市井の専門家とのコンビで役割分担が曖昧な点など、弱点も目立ち始めている。さまざまな要素を盛り込みすぎて、サイコスリラーの切れ味を削いでいる点も惜しまれる。
[ミステリマガジン2011年10月号]

ピグマリオンの冷笑 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ピグマリオンの冷笑 (ハヤカワ・ミステリ文庫)