ラジオ・キラー/セバスチャン・フィツェック(柏書房)

英米のミステリに慣れてしまったせいか、異なる文化を背景にした非英語圏の作品には、微妙な違和感をおぼえることが少なくない。昨年「治療島」というデビュー作が話題になったセバスチャン・フィツェックというドイツ作家の第二作『ラジオ・キラー』も、その例に洩れず。最初は、特異な設定にやや戸惑いをおぼえたのだが……。
ベルリンのポツダム広場にあるラジオ局がハイジャックされた。見学客を装ってスタジオを乗っ取った犯人は、人質をとって立て篭もり、警察と視聴者に向けて、奇妙な要求を電波に乗せた。行方の知れないフィアンセを探し、連れてこいというのだ。しかし、当のフィアンセは、記録上は交通事故で死亡していた。当局の困惑をよそに、犯人は人質の命をかけた死のゲームを開始する。
いかにもキワモノなハイジャック事件と、自らボロボロの精神状態を抱えるヒロインに、やや白けた気分でページを捲った前半だが、ある事実が判明する中盤過ぎたあたりから、それまでのつかみどころのない展開が嘘のように面白くなってくる。サプライズにつぐサプライズの釣瓶打ちでラストへ。しかし、そこでも読者はさらに恐るべき事実を突きつけられるのだ。不器用なところもある作家だが、どうか前半で挫けずに根気よくご賞味を。
[本の雑誌2008年3月号]

ラジオ・キラー

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