羊たちの沈黙(上・下)/トマス・ハリス(新潮文庫)

たった一作がミステリの歴史を変えてしまうことがある。トマス・ハリスの『羊たちの沈黙(上・下)』(新潮文庫)もそんなひとつだ。ジョディ・フォスターが初々しい見習い捜査官を、アンソニー・ホプキンスが毒々しくハンニバル・レクター博士役を演じた映画も懐かしい。サイコスリラーのネオ・クラシックともいうべきこの作品が、なんと二十三年ぶりに高見浩の新訳で帰ってきた。
アカデミーで訓練中のクラリスは、あるときFBI行動科学課を率いるクロフォードの抜擢で、獄中の殺人犯レクター博士に接見する。苦心の末に捜査中の連続殺人犯の手がかりを得るが、上院議員の娘が誘拐され、事件は思いもかけない展開を遂げていく。いまさらの説明などまったく不要なオールタイム級の傑作だが、今回の新訳により複雑な物語の解像度はぐんとあがった印象がある。とっくに読んでるよというオールド・ファンも、この機会にぜひ再読を。
[波2012年2月号]

羊たちの沈黙(上) (新潮文庫)

羊たちの沈黙(上) (新潮文庫)

羊たちの沈黙(下) (新潮文庫)

羊たちの沈黙(下) (新潮文庫)