チャイルド44/トム・ロブ・スミス(新潮文庫)

おっと、今頃になってご紹介とは。リドリー・スコット監督による映画化も進行中という『チャイルド44』は、イギリスの新鋭トム・ロブ・スミスの処女作だ。しかし、新人とは思えぬ筆力で、ブッカー賞にまでノミネート(ロングリストのみだが)、スターリン治世下のロシアを克明に描いてみせる。
妻に国家反逆の疑いが掛けられたことから、国家保安省の捜査官の仕事を追われ、田舎町の民警に格下げされた主人公のレオ。しかし、そこで出会った死体は、かつてモスクワで起きた事件を思い出させた。線路脇で少年が無惨な死体となって見つかるが、犯人とおぼしき人物を見かけた目撃者がいたにもかかわらず、彼はそれを事故と決めつけてしまった。体制の歯車としてとった判断を悔いるレオは、改めて捜査を開始するが、事件には想像を絶するデモーニッシュな絵柄が隠されていた。
ロシアには社会の堕落の証しである連続殺人犯は存在しない、という社会主義プロパガンダが生み出すテーマが見事だ。実在したシリアルキラーに材をとったサイコスリラーに仕立てられてはいるが、当時のロシアの内情を暴いていく物語の背景と負け犬となった主人公が孤独な捜査活動を通じて再生していく姿が読み応え十分。
次回作の「The Secret Speech」は、レオの登場するシリーズの第二作となる模様で、イギリス本国ではこの春に刊行予定。年内には、わが国への翻訳紹介も予定されている。(新潮文庫刊行予定)
[J−NOVEL2008年11月号]

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)