ニーナの記憶/ビル・フロイド(ハヤカワ文庫NV)

表紙の作者名より、帯に刷られた推薦者アイリス・ジョハンセンの名の方が目立つ本のつくりで、てっきりロマンス寄りだろうと思ってしまったビル・フロイドの『ニーナの記憶』。しかし、中身は意外にも連続殺人犯である夫に怯える妻を主人公にした骨の太いサスペンス小説でした。感心させられたのは、犯罪者家族の苦悩に焦点をあわせながら、過去のエピソード、さらには現在進行形の犯罪をも並行して描く手法で、埋め尽くすようにサスペンスの糸を張り巡らしている点。その分、アイデアの使い捨てのようなもったいない箇所も目につくけど、旺盛なサービス精神は新人作家のあり方として正しいと思う。終盤やや失速するのが惜しまれるが、読んで損のない新人のデビュー作である。
(追記)ちなみに、本作は2009年のメアリ・ヒギンズ・クラーク賞をMWAから授けられた。
本の雑誌2009年5月号]

ニーナの記憶 (ハヤカワ文庫NV)

ニーナの記憶 (ハヤカワ文庫NV)