卵をめぐる祖父の戦争/デイヴィッド・ベニオフ(ハヤカワ・ミステリ)

デイヴィッド・ベニオフは、脚本も書くし、そもそもは映画畑に軸足をおいているようだが、文学の才も半端ではない。秀でたストーリーテラーぶりは、すでに『25時』や『99999』でおなじみだが、新装なったポケミスの第一弾として登場した『卵をめぐる祖父の戦争』では、さらにその独自の文学性を大きく開花させている。
現代のフロリダから始まる気のきいたイントロから、物語は第二次大戦下のレニングラードへ。ドイツに蹂躙されたロシアの極寒の地を旅する主人公の十七歳の少年とその相棒の物語が描かれていくが、戦火と窮乏にさらされながらも、ふたりの間には常にユーモアと信頼関係がある。そんな青春文学の甘酸っぱさもいいし、そこに戦争文学の緊張感が絶妙のブレンドで加わり、物語文学の豊かなカタルシスを生みだしている。
本の雑誌2010年10月号]

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)