音もなく少女は/ボストン・テラン(文春文庫)

ボストン・テランの『音もなく少女は』は、語り手としての作者の成長がうかがえる作品だ。デビュー作の『神は銃弾』は、異様な熱気と深い混沌が不思議な魅力ではあったけど、それに恐れをなした読者も少なくなかった。デビューから四作目にあたる本作では、その語り口もずいぶんと落ち着き、同じ作者とは思えないとっつきやすさが生まれている。
生まれつき聴覚が不自由なヒロインをめぐる年代記で、劣悪な家庭環境におかれた少女時代を経て、数奇な運命に弄ばれながらも成長を遂げていくイブと、彼女のよき理解者である孤高の女性フランの力強い生き方が描かれていく。その一方で、そんなポジティブな女性たちを許容することのできないケチな男たちが登場し、次々と前に立ち塞がる。そんな悪党どもに、ヒロインらはどう立ち向かっていくかという興味で、静かな感動が押し寄せるラストまで一気に読まされてしまう。
本の雑誌2010年10月号]

音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)