砂漠の狐を狩れ/スティーヴン・プレスフィールド(新潮文庫)

ティーヴン・プレスフィールドの『砂漠の狐を狩れ』は、二次大戦下における北アフリカ戦線の砂漠地帯を舞台にした英国軍車両部隊の物語である。語り手は戦後出版社を興し、社主となった人物で、自身の若き日を回想するという形で語られていく。まだ二十歳そこそこだった彼は、戦争が始まるや、祖国愛に燃え陸軍へと志願した。やがて願いがかない、苛酷といわれた長距離砂漠挺身隊に配属されるが、彼が負った任務はドイツの知将ロンメル将軍の暗殺だった。
敵との遭遇や、苛酷な自然条件下で強いられるサバイバルなど、主人公の中尉が率いるチームのたどる悪戦苦闘は、冒険小説としての読み応え十分。その熾烈さに、ややもすると読者に主人公らの本来の任務はどうなったのかと心配になってくるが、すると作者はにわかに主題に立ち返り、絶妙のタイミングで読者に心地よい驚きを与えてくれる。愛するもののために、困難に立ち向かう誇り高き男たちの不屈の物語を心して読まれたい。
本の雑誌2009年4月号]

砂漠の狐を狩れ (新潮文庫)

砂漠の狐を狩れ (新潮文庫)