猛き海狼/チャールズ・マケイン(新潮文庫)

久しぶりに血湧き肉躍る海洋冒険小説と出会った。チャールズ・マケインの『猛き海狼(上・下)』である。第二次世界大戦下、愛する祖国のために命を賭けて大海原へと乗り出していくドイツ海軍の若き士官が主人公だが、ゲルマンから眺めた英米が描かれるというユニークな視点もあって、これがアメリカ人作家の手になるデビュー作なのだから、驚かされる。
物語は、凄絶な海戦や死に直面するなどの経験を経て、精神的な成長を遂げていく士官の姿を描いていくが、その一方で戦争というものの非人道的な本質を浮かび上がらせていく。思わぬ展開を遂げていく終盤は、エンタテインメントとして一流の面白さもある。かつて戦争とは、誇り高き男たちの闘いであったことを思い起こさせる大盛りの冒険小説スピリットに拍手を。
[波2010年12月号]

猛き海狼〈上〉 (新潮文庫)

猛き海狼〈上〉 (新潮文庫)

猛き海狼〈下〉 (新潮文庫)

猛き海狼〈下〉 (新潮文庫)