グラーグ57/トム・ロブ・スミス(新潮文庫)

早くも届けられたトム・ロブ・スミスの第二作『グラーグ57』。国家保安省時代のおとり捜査のエピソードで幕があくが、間もなく「チャイルド44」の後日談であることが明らかになる。忌まわしい事件から三年が過ぎ、主人公のレオはモスクワで殺人課を創設、家庭の安寧も取り戻している。しかしそんな彼に、極寒の収容所(グラーグ)からある囚人を脱出させろ、という難題がつきつけられた。
一旦は国家に奉仕する人生と訣別し、人として生きる道を選んだ主人公を、フルシチョフスターリン批判という歴史の転機が、またも窮地に立たせる。彼を数奇な運命へと追いやる人物が、ちょっとありえないくらいの変貌ぶりだし、その後の収容所からの脱出作戦、動乱間近なハンガリーへの潜入と畳みかける展開も破天荒。しかし、その読者の意表をつく物語を、家族の絆という骨太のテーマがしっかりと支え、歴史の間に沈むロシアの闇を暗く浮かび上がらせる。「チャイルド44」は本作のためのプロローグに過ぎなかったのではないか、という思いがふと頭をよぎる傑作である。
[本の雑誌2009年10月号]

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)