乱気流/ジャイルズ・フォーデン(新潮文庫)

ヨーロッパ全土に広がるナチスドイツの席巻に歯止めをかけ、第二次大戦の歴史的転換点になったと言われるノルマンディー上陸作戦。その史実を気象予測という視点から眺めたユニークなフィクションが、ジャイルズ・フォーデンの『乱気流(上・下)』である。Dデイの作戦を左右する天候に気を揉む連合国軍本部は、スコットランドで隠遁同然の生活を送るカリスマ的な科学者のもとに、若き気象学の専門家を送りこむ。
天候の予測を可能にする数式をあみだしたという作中の科学者には、実在のモデルがいるそうだが、兵役を拒否し平和主義を貫く彼から、その秘密を聞き出す使命をおびた青年がたどる苦難の物語には、戦争秘話の域を越え、冒険小説、スパイスリラー、さらには成長の物語のカタルシスがある。秋の夜長にふさわしい読み応え十分の一作といえるだろう。
[波2010年11月号]

乱気流〈上〉 (新潮文庫)

乱気流〈上〉 (新潮文庫)

乱気流〈下〉 (新潮文庫)

乱気流〈下〉 (新潮文庫)