極限捜査/オレン・スタインハウアー(文春文庫)

2008年はトム・ロブ・スミスの「チャイルド44」やヘニング・マンケルの「タンゴステップ」など、二次大戦以降のヨーロッパの歴史の暗部に光をあてるような作品が目立ったが、きわめつけはこの作品かもしれない。ヨーロッパ在住のアメリカ作家、オレン・スタインハウアーの『極限捜査』である。自国のおぼつかない政府やソビエトからの干渉、周辺国のきな臭い情勢など、政情不安定な東欧の架空の小国を舞台に、ひとりの民警捜査官の目を通して、共産主義下におかれた国家の極限状況が描かれていく。
季節の移り変わりとともに明らかになっていくいくつかの不審死事件が、過去の事件と結びつき、やがてひとつの線で結ばれる。驚かされたのは、そのミステリとしての大団円を終えてからで、浮かび上がってきた恐るべき事実を前にした主人公を、正義と何かという真摯な問いかけが待ち受けている。本作は、ヤルタ・ブールヴァード(ヤルタ大通り)シリーズと銘打たれた東欧の半世紀を俯瞰する五部作の一角をなすものだが、(翻訳は「嘆きの橋」に続く二作目)展開の予想がまったくつかない次作以降がとても待ち遠しい。
本の雑誌2009年1月号]
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極限捜査 (文春文庫)

極限捜査 (文春文庫)