ファイアーウォール(上・下)/ヘニング・マンケル(創元推理文庫)

スウェーデン南部の港町イースタを舞台に刑事のクルト・ヴァランダーの活躍を描くシリーズも、『ファイアーウォール(上・下)』(創元推理文庫)で数えて八作目。時代に敏感な警察小説として、ヨーロッパ勢の先頭を切るシリーズのひとつだ。今回の主人公は、いつにも増して押し寄せる時代の波に頭を悩ませている。
少女二人組がタクシーの運転手を襲った事件は、若者たちの無軌道な犯行かと思われたが、やがて銀行のATMの前で起きたITコンサルの変死事件と奇妙な繋がりを見せ始める。本作に描かれるネット社会の陥穽に慄然とするのは、主人公ばかりではない。さらに世界経済の綻びというテーマを突きつけられる読者の胸からは、ペシミスティックな余韻が読後も去らないのである。
[波2012年12月号]

ファイアーウォール 上 (創元推理文庫)

ファイアーウォール 上 (創元推理文庫)

ファイアーウォール 下 (創元推理文庫)

ファイアーウォール 下 (創元推理文庫)