ワイオミングの惨劇/トレヴェニアン(新潮文庫)

トレヴェニアンの孤高ともいうべき創作姿勢は、やはり巨匠の名に値するものだろう。まさに、前作「バスク、真夏の死」から十五年ぶりの新作である『ワイオミングの惨劇』でも、今や伝説的ともなったトレヴェニアンの物語作家としての才能を見せつけてくれる。
十九世紀も末に近いワイオミング州の田舎町〈二十マイル〉。銀の採掘でいっときは賑わった町も、今はさびれかけており、食堂、娼館、よろず屋の経営者など、ほんの一握りの住民しかいない。銀山で働く男たちは、週に一回、束の間の憩いを求めて、長い道のりを鉄道で降りて来る。週末のお楽しみで、酒と女を堪能した男たちは、週が明けると再び山へと戻っていく。
〈二十マイル〉の町に、ひとりの男がやってくる。彼の名はマシュー。最初は胡散臭い目で彼を見ていた町の人々も、その勤勉な働きぶりを認め、次第に町の一員として認めるようになる。そんな矢先、刑務所から三人の凶悪犯が脱走して、この町に辿りついた。リーダーを名乗る男の非道なふるまいで、町は一夜にして地獄と化す。人々は危機的な状況を打開するために、一計を案じるが。
ウェスタン小説という形をとってはいるが、そのジャンルの定石に収まりきれない展開の妙味は、これまでのトレヴェニアンと何ら変わりはない。閉塞的な人々とマシューのさりげない心の交流や、突如として町に降りかかる災難に立ち向かっていく主人公らの姿など、小説としての充実感にあふれた読みどころ多し。読み手の裏をかくような意表をつくエンディングも買いだ。
[ミステリマガジン2004年8月号]
》》》トレヴェニアンのビブリオグラフィー

ワイオミングの惨劇 (新潮文庫)

ワイオミングの惨劇 (新潮文庫)