チェンジリング/クリント・イーストウッド監督(2008・米)

チェンジリング』は、喜寿を迎えながらも、話題作を次々と世に送り出しているクリント・イーストウッド監督(今も、すでに次の「グラン・トリノ」が公開され、ヒットしている)がJ・マイケル・ストラジンスキーの脚本を映画化した作品で、同題のカナダ産ホラー映画があるがそれとは別で、こちらは勿論新作だ。「実話にもとづく」って触れ込みには飽き飽きしていて、もういい加減にしてほしいと思ってるわたしだけど、これはその稀有な例外といっていい。本作のただならないリアリティは、実際に起きた出来事だというクレジットの重みによって、さらに深いものになっている。一九二八年のロサンジェルスで、母親の留守中にひとりの少年が行方不明になった。五か月後少年は遠く離れたイリノイの田舎町で保護されるが、母親は「この子は私の息子じゃない」ことに気づく。彼女の訴えを妄執と決めつけ、事件を解決済みとする警察を向こうにまわし、必死に息子を捜そうとする母親役を、実際にも確か六人の子持ちである筈のアンジェリーナ・ジョリーが熱演。少し前に公開された「ウォンテッド」とは一八○度異なる母性愛に満ちた役柄を堂々とこなしている。袋小路に陥った少年探しが、ちょっとした偶然からデモーニッシュな方向へと展開していく中盤以降も、息を呑むスリルがあるし、クライマックスかと思わせる局面が何度か訪れながら、そのたびに粘り腰でさらにその先の物語へと舵をとっていくドラマ掘り下げの真摯さにも胸を打たれる。
[日本推理作家協会報2009年4月号]
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