裁きの曠野/C・J・ボックス(講談社文庫)

単発の『ブルー・ヘブン』でエドガー賞に輝いているC・J・ボックスだが、デビュー作以来の読者には、ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの方に愛着をおぼえる向きもあるだろう。『裁きの曠野』は、シリーズの数えて第六作(一作未訳あり)にあたる。
奇人としても、やり手としても、近所で知らぬ者のない女牧場主のオパールが、ある日忽然と姿を消した。三人の息子たちが血を流して争う場面に遭遇したジョーは、否応なく莫大な遺産相続をめぐる騒動に巻き込まれていく。オパール殺しの容疑者として、あこぎな通行料の徴収に腹を立て、彼女を川に投げ込んだというガイドのトミーに注目が集まるが、死体は見つからないままだった。一方、過去の出来事を逆恨みし、ジョーをつけ狙う男がいた。彼の歪んだ復讐心は、やがてジョーの家族へと向けられていく。ふたつの事件は思いもかけなかった形で結びつき、ジョーを窮地へと追い込んでいく。
第一作の『沈黙の森』以来、次々降りかかる公私にわたる困難事を乗り越えてきたジョーだが、家族と仕事を愛してやまない彼の生き方が、本作ではこれまで以上に鮮明になった印象がある。シリーズの成熟と呼んでいいと思う。主人公を厄介払いしようとする上司と確執や、ボタンを掛け違えた友人との関係をめぐる葛藤もあるが、終始変わらぬ一本筋の通った主人公の行動は、やはり読者の胸をうつ。消えた老女をめぐる人を喰ったような真相のミステリ的な面白さにも大いに唸らされた。
[ミステリマガジン2012年8月号]

裁きの曠野 (講談社文庫)

裁きの曠野 (講談社文庫)