記者魂/ブルース・ダシルヴァ(ハヤカワ・ミステリ)

開巻すぐに目に飛び込んでくるのは、故エヴァン・ハンターから著者にあてての手紙だ。AP通信の記者だったブルース・ダシルヴァは、彼の記事を目にとめた巨匠の励ましがきっかけで、この『記者魂』を書いたという。その間、十六年という歳月が流れているが、頓挫しかけていた小説をさらに後押しし、完成に導いたのはオットー・オペンズラーだったという。まさに鳴り物入りのデビュー作といっていいだろう。
ロードアイランドの州都プロヴィデンスでは、ここ三ヶ月の間に九件の火災が起き、五人の死者が出ていた。一連の事件はその関連性を疑われ、ローカル新聞の記者マリガンも事件を追い始める。しかし市警察の放火課の捜査官を訪ねるものの、けんもほろろ。やむなく彼は火災保険会社の調査官で旧友のブルースとともに、事件に取り組む。地元では自警団が組織されパトロールが開始されるが、その後も火災は続き、ついには消防隊員にも犠牲者がでる。火災現場の野次馬を撮影した写真から、マリガンはひとりの怪しい人物に行き当たるが。
ジャーナリズムの世界では名だたる作者だが、小説となるとやや勝手が違うか、全体として散漫な印象は否めない。登場人物でいえば善玉悪玉の色分けがあまりにベタだし、放火事件の真相も面白味に乏しい。ただ、若かりし日の記者生活を彷彿とさせる主人公の日常がいきいきと描かれる点は買いで、今回は詰め込み過ぎてやや裏目に出ているサービス精神とうまく結びつけば、作家としての伸びしろはかなりあると思う。
[ミステリマガジン2011年9月号]

記者魂 ((ハヤカワ・ミステリ1849))

記者魂 ((ハヤカワ・ミステリ1849))