暗殺のハムレット(ファージング2)/ジョー・ウォルトン(創元推理文庫)

ファンタジーの分野から歴史改変テーマをひっさげミステリの世界へ堂々乗り込んできた世界幻想文学大賞作家ジョー・ウォルトンの〈ファージング〉三部作の『英雄たちの朝』に続くパート2は、『暗殺のハムレット』だ。前作のハンプシャー州の古い屋敷からロンドンの劇場へと舞台を移し、新解釈のシェイクスピア劇が上演されることに照準を合わせた反体制分子たちの企む宰相暗殺計画をめぐる物語である。
ドイツと単独講和を結んだもうひとつの英国を描く〈ファージング〉だが、本作では、第三帝国の圧力を受け国家によるユダヤ弾圧はますます激化している。三作を通じての探偵役であるカーマイケル警部も、現体制を憂い苦悩を深めていくが、物語の方は運命に弄ばれるように暗殺計画に巻き込まれていくヒロインの女優ヴァイオラを描き、華やかな演劇ミステリの世界が繰り広げられていく。前作を読めば必ずや手が伸びる第二作だが、そんな読者の期待は絶対に裏切られない。
本の雑誌2010年9月号]

暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)

暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)