ザ・ロード/コーマック・マッカーシー(早川書房)

昨年の積み残しから。キングの『ザ・スタンド』が疫病の流行、マキャモンの『スワン・ソング』が核戦争の勃発と、小説の中で描かれる世界の終わり方も色々だが、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』をひもとく読者も、最初は主人公親子の行く手に広がる絶望的な世界がなぜ滅んでしまったかが気になるに違いない。しかし、読み進むうちに、いつしか読者の興味は別のことに移っていく。すなわち、ふたりはなぜ旅を続けるのか。そして、旅路の果てにふたりを待ち受けているものは何なのか?
前作『血と暴力の国』が、現代アメリカの暗澹たる一面を背景にしたディープな犯罪小説だったこともあって、本誌読者の間でも注目度が高いに違いない、ピュリッツァー賞に輝くマッカーシーの新作である。しかし終末テーマのSFとしてはともかく、ミステリとしての要素は希薄で、お得意のロードノベルの面白さはあっても、純文学的でシリアスな雰囲気に包まれている。
空と地上を灰色が冷たく覆う世界を旅する父と幼い息子。身の回りの品を乗せたショッピングカートを押しながら、ふたりはただひたすら暖かな南を目指す。廃墟では食料をあさり、遭遇する無頼たちには警戒を怠らず。別れた母親の回想などを差し挟みながら、物語は気の遠くなるような虚無への旅を追っていくのだ。
『血と暴力の国』からは、ほんのひとつ地平を越えただけの世界かもしれないが、迫り来る終末観には、ひたすら圧倒される。イノセントな存在として描かれる息子によって、親子の旅は宗教的な意味での贖罪の旅にも重なるが、度々父親が口にする「火を運ぶ」という旅の目的が、やがて宗教的な意味を越え、未来を照らすささやかな希望に思えてくる。
なお、2009年はホラー映画仕様との噂がある映画公開も控えている。
[ミステリマガジン2008年10月号]

ザ・ロード

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