陰謀病棟/クリストフ・シュピールベルク(扶桑社海外文庫)

「朗読者」のベルンハルト・シュリンクや「ラジオ・キラー」のフランク・フィツェックなど、ドイツにも侮ることのできないミステリ作家はいるが、『陰謀病棟』のクリストフ・シュピールベルクもそのひとりかもしれない。二○○二年、ドイツの推理作家協会が選ぶクラウザー賞の新人賞にも輝いた医学ミステリである。
財政難による合理化の波が押し寄せるドイツの医療界。循環器系の医師ホフマンは、ある晩、自宅でサッカー観戦中に呼び出しをうけ、泣く泣く勤務先のベルリン市内にあるフマナ病院に駆けつけた。ひどい黄疸で運び込まれてきたウクライナ人は、まもなくこと切れるが、男は以前担当していた入院患者だった。死因にひっかかるものを感じた彼は、死体を病理解剖に回すが、なぜか当番医にそれを阻止する。不信感にかられ、ウクライナ人と病院の関係を調べようとしたホフマンだったが、こっそり忍び込んだ部屋で上司の死体を発見してしまう。
現職の医師の手になる医学ミステリで、しかもユーモアの才も感じられることから、わが国の海堂尊を連想させたりもする作者。饒舌で達者な主人公の一人称が、ホルマリン臭い医療の世界へ有無を言わさず読者を引っぱりこんで行く。民営化による過剰なコスト管理が進む病院の舞台裏を暴いていく社会性にも説得力があるが、恋人や元恋人、同僚らとの人間模様から浮かび上がる主人公の人間性がとても魅力的だ。
[ミステリマガジン2009年1月号]

陰謀病棟 (扶桑社ミステリー)

陰謀病棟 (扶桑社ミステリー)