深い疵/ネレ・ノイハウス(創元推理文庫)

ホロコーストという悲劇を生んだナチズムの禍根は、本国ドイツの現代ミステリでも依然主題としての重さを失っていない。新鋭の女性作家ネレ・ノイハウスの『深い疵』は、冒頭アメリカ大統領の顧問まで務めたユダヤ人が射殺され、ナチス親衛隊という彼の知られざる過去が明らかになる。
老人ばかりが殺される連続殺人の捜査にあたるのはホーフハイム刑事警察の首席警部オリヴァーと相棒のピア警部だが、この男女コンビが絶妙のチームワークで第二次大戦下のデモーニッシュな事件とそれをめぐる悲劇に迫っていく。警察小説の世界をリードする北欧勢を追うドイツ代表は、間違いなくこの作家だろう。
[波2012年8月号]

深い疵 (創元推理文庫)

深い疵 (創元推理文庫)