ブラック・ブレッド/アグスティー・ビジャロンガ監督(2010・西)


アルモドバルの『私が、生きる肌』を押しのけてのアカデミー賞ノミネートが話題になったアグスティー・ビジャロンガ監督の『ブラック・ブレッド』は、フランコ政権による弾圧下にあった一九四○年代のカタローニャ地方を舞台にしている。少年は、ある日森の奥で友人とその父親が謎の人物に惨殺される現場を目撃する。反政府運動への加担から、殺人の容疑をかけられた父親ルジェ・カザマジョが姿を隠したため、少年は母親のノラ・ナバスとも離れて暮らさねばならなくなる。富める者と貧しき者の格差と矛盾の中で、幾多の困難とぶつかりながら少年は成長していくが、あるとき思いもかけなかった事実を知らされることに。
フランセスク・クルメの少年役が素晴らしい。妖しく彼に近づいてくる従妹のマリナ・コマスや、妖精のように森を駆ける謎の青年など、多感さゆえに周囲から幻惑もされるが、一歩一歩着実に成長していく少年の姿を実にいきいきと演じている。一方、冒頭のショッキングなフーダニットは、そのまま物語と寄り添い、最後に衝撃の解決が下される。ダイイングメッセージに込められた謎の怪物ピトルリウアの正体や、クライマックスに明かされる一通の手紙をめぐる謎が、小宇宙に浮かぶ惑星のように物語を取り巻き、ミステリ映画のコクと味わいを深めている。
日本推理作家協会報2012年8月号]
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