修道院の第二の殺人/アランナ・ナイト(創元推理文庫)

かのイアン・ランキンも折り紙をつけるというイギリスの女性作家アランナ・ナイトは、四十年以上ものキャリアを誇るベテラン作家だ。この『修道院の第二の殺人』が本邦初紹介となる。
一八七○年のエジンバラ、ひとりの罪人の絞首刑が執行された。その前日、市警本部のファロ警部補が死刑囚の口から聞いた最後の訴えは、二件の殺人容疑のうち不実な妻に手にかけたのは自分だが、同じ修道院で起きた女教師殺しは身に覚えがないというものだった。折からの体調不良でこの事件担当を外れたという心残りもあったファロは、死刑の後、病をおしてニューヨークから訪ねてきたという死刑囚の妹の必死の訴えを聞き、また警察医の助手として修行中の新米医師である義理の息子ヴィンスから諭されたこともあって、しがらみに背中を押されながら事件の再調査に乗り出していく。
原著刊行からほぼ四半世紀を経ての紹介となった本作だが、ビクトリアン・ミステリとしては出色の一編といっていいだろう。原題は「第二の殺人者登場」で、そこから連想されるフーダニットの興味もあれば、ミステリと並んで作者の得意ジャンルのひとつであろうロマンス小説としての面白さも備えている。主人公の警部補の人生には愛妻を失った過去が影を落としているが、その忘れ形見である義理の息子との関係も濃やかに描かれており、演劇の都エジンバラにふさわしくシェイクスピア劇が大きく絡んでくるあたりも期待どおり。引き続きのシリーズ紹介を熱望しておく。
[2012年6月号]

修道院の第二の殺人 (創元推理文庫)

修道院の第二の殺人 (創元推理文庫)