骨の刻印/サイモン・ベケット(ヴィレッジブックス)

CWA賞の最優秀長編部門で候補にもなった前作は日本での評判もよく、その続編を待っていた読者も多かったろう。サイモン・ベケットの『骨の刻印』は、三年ぶりの再登場となる〈法人類学者デイヴィッド・ハンター〉シリーズの第二作にあたる。
ひと仕事を終え、空港へと向かうタクシーの中で携帯にかかってきた電話は、スコットランド北部の警察署からだった。ヘブリディーズ諸島の小さな島で奇妙な焼死体が見つかり、デイヴィッドに専門家としての判断を仰ぎたいという。家で彼の帰りを待つ恋人のジェニーのことが頭に浮かびつつも、迷った末に事件現場へと向かってしまう主人公。死体は身元不明の女性のもので、本体は黒こげになっていたが、なぜか手足はきれいに残されていた。やがて殺人の痕跡が見つかり、鑑識の出動を要請するものの、島は孤立。犯人は第二の犯行におよび、デイヴィッドの身にも危険が迫る。
英国の最果ての島を舞台に、本土の列車事故悪天候など、作者はあの手この手で孤島もののシチュエーションを作り上げている。そんな設定を十分に活かし、好意的とはいえない島のコミュニティを相手に悪戦苦闘を強いられる主人公の姿をサスペンスフルに描いている。法人類学のエキスパートであると同時に、恋人との関係にも頭を悩ませる等身大の主人公像も親しみ易く、強靭さを増したプロットともども、最後の最後まで読者の興味をそらさない。事件と探偵役の因果関係に言及したり、オフビートなエンディングをもってきたりするあたりには、作者の自己主張も窺える。シリーズの今後がますます楽しみになってきた。
[ミステリマガジン2012年6月号]

骨の刻印 (ヴィレッジブックス F ヘ 5-2)

骨の刻印 (ヴィレッジブックス F ヘ 5-2)