灼熱の魂/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督(2010・加仏)


アカデミー賞外国語映画賞部門にもノミネート、先頃発表された〈キネマ旬報〉の二○一一年ベストテンでは堂々のランクイン(九位)を果たしたカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『灼熱の魂』は、内乱の嵐が吹き荒れる中東某国を舞台にした、地獄めぐりの物語だ。その混乱の時代を生き抜いたひとりの女性に物語の焦点は絞られるが、自らのルーツ探しに出た双子の男女は、母親の来し方をめぐって思いがけない真実をつきつけられる。
穏やかなカナダの地で余生を送る老女ルブナ・アザバルは、あるときプールサイドで放心状態に陥り、しばらくして入院先の病院で息を引き取ってしまう。弁護士からの説明を受けた双子の姉メリッサ・デゾルモー=プーランは、弟の反対を押し切り、死の直前に残された謎めいた二通の手紙と遺言に従い、中東へと飛ぶ。しかし故郷の村で彼女を待ち受けていたのは、若き日の母親をめぐる信じられないほどの悪評だった。
国や時代は伏せられているが、おそらく舞台は七十年代のレバノンだろう。主人公らにもたらされる真相はあまりに苛酷だが、当時の混乱をきわめていた内戦下では十分に起こりえた事に違いない。ギリシャ悲劇にも似たカタストロフの衝撃は、双子だけでなく観客をも打ちのめすが、そこに託された主題が冒頭の一シーンへと繋がるカタルシスは、やはりミステリ映画と呼ぶにふさわしい。なお、もとはベイルート生まれの劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲(「焼け焦げるたましい」)で、四部作の第一部にあたるこの映画の原典は、二○○九年十月にカナダ大使館の後援により日本でも上演されているようだ。 
日本推理作家協会報2012年3月号]
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