フェア・ゲーム/ダグ・リーマン(2010・米唖)


ホワイトハウスを牛耳る大統領の側近たちが、マスコミを通じてひとりのCIAエージェントの身分を世間に晒すというとんでもない愚挙に出た、世にいうプレイム事件。この二十一世紀初頭、実際に起きたスキャンダルに取材したのが、『フェア・ゲーム』である。
ナオミ・ワッツは、CIAでイラクの核開発疑惑を担当し、世界中でいくつもの作戦を同時進行させているやり手の女性エージェントだ。その夫のショーン・ペンも、今は民間人だが元米国大使のキャリアがあり、国務省の要請を受けて濃縮ウラン売買の情報を確認するためにアフリカへと飛ぶ。ふたりの報告からCIAの内部ではイラクに核開発の疑惑はないという判断がなされるが、どうしても大量破壊兵器保有していると主張したいブッシュ政権は、情報を捏造し、イラクへ宣戦布告する。副大統領の補佐官デヴィッド・アンドリュースは、真相を暴こうとするショーン・ペンの告発を妨害し、報復へと打って出る。
第一級のポリティカル・スリラーだ。当時の報道では痛痒もどかしかった事件の全貌がすっきりと判る痛快さもあるが、(ただし、CIAがやや善玉に描かれ過ぎのきらいはある)政治の舞台裏が家族の絆という尺度で測られていくあたりが実に上手い。政府とマスコミによる夫妻に対するバッシングがエスカレートし、ついには孤立無援の状態に置かれ、家族の絆も危機に晒されたナオミ・ワッツショーン・ペンが、それでもあくまで自らの生き方を貫き通そうとする姿に胸をうたれる。監督はラドラム『暗殺者』の映画化『ボーン・アイデンティティー』を撮ったダグ・リーマン
日本推理作家協会報2012年1月号]
》》》公式サイト