謝罪代行社/ゾラン・ドヴェンガー(ハヤカワ・ミステリ、ハヤカワ・ミステリ文庫)

〈ミレニアム三部作〉の日本上陸は、英仏以外のヨーロッパ諸国にわが国読者の目を向けさせる大きなきっかけとなったが、話題沸騰の北欧勢に負けじと、ドイツからも気鋭の作家の登場だ。クロアチア生まれのドイツ作家ゾラン・ドヴェンカーの『謝罪代行社』である。
クリスとその弟ヴルフ、友人のタマラとフラウケの四人は、かつて同じギムナジウムで親しかった若い男女だ。失業や就職難でかつかつの生活を送る彼らは、クリスの発案で謝罪代行業の会社〈SORRY〉をスタートさせる。新聞広告も功を奏し、新商売は思いのほか大繁盛するが、半年後舞い込んできた依頼が彼らの成功を暗転させてしまう。ある依頼人の指定の場所に足を運ぶと、そこにはひとりの女性の死体が二本の釘で磔にされていたのだ。依頼人の要求は、死者への謝罪と死体処理だった。親族の身の安全を心配し、やむなく依頼人に従う彼らだったが、過去の因縁が渦巻くミステリアスな事件の渦中へと引き込まれていってしまう。
ドイツ勢の実力は、先に紹介されているセバスチャン・フィツェックの諸作で思い知らされているが、やはりお国柄のようなものがあるだろう、本作の面白さはフィツェックの大傑作『ラジオ・キラー』に通じるものがある。デニス・ルヘインのある作品を彷彿とさせる部分もあって、作者が英米のミステリに精通していることを窺わせる。複雑であるがゆえの冗長な部分をもう少し刈り込んでほしい気もするが、二人称まで駆使してのトリッキーな作りは読み応え十分。最後の最後まで息をつかせない展開も見事だ。別の作品もぜひ読んでみたい。
[ミステリマガジン2011年11月号]

謝罪代行社(ハヤカワ・ミステリ1850) (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

謝罪代行社(ハヤカワ・ミステリ1850) (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)