荒涼の町/ジム・トンプスン(扶桑社海外文庫)

ここのところの地道な翻訳紹介によって、犯罪小説の巨匠ジム・トンプスンの全貌が明らかになりつつあるのは嬉しいことだ。新訳の『荒涼の町』は、なんと「おれの中の殺し屋」の問題の人物ルー・フォードが、再び読者の前に登場する。
テキサスの田舎町に、前科者の浮浪者が流れ着いた。町の保安官助手ルーは、なぜか彼に暖かく手を差し伸べ、ホテルの警備の仕事を世話してやり、男も心の平和を手に入れる。しかし、従業員のケチな犯罪からその平和はまたもや綻びはじめる。
人を喰ったような態度と、掴み所のなさで、ルーは相変わらず異彩を放っている。彼と自らトラブルを呼び寄せてしまう前科者との出会いが、本作でも人間の負の側面をあからさまに暴き立てる。
[ジェイノベル2007年6月号]

荒涼の町 (扶桑社ミステリー)

荒涼の町 (扶桑社ミステリー)