愛おしい骨/キャロル・オコンネル(創元推理文庫)

看板のキャスリーン・マロリーのシリーズよりも、単発作の『クリスマスに少女は還る』で語られることの多いキャロル・オコンネルだが、もう一篇あるノンシリーズが紹介された。『愛おしい骨』は、主人公オーレン・ホッブスが、長年勤めたアメリカ合衆国陸軍の犯罪捜査部を辞め、二十年ぶりに故郷に帰ってくるところから始まる。
事件は彼が十七歳の時に起きた。その日、オーレンは二歳年下の弟ジョシュアと森に出掛けたが、戻ってきたのは彼だけだった。ホテルの女主人のアリバイ証言でオーレンは容疑を免れるが、事件は迷宮入りとなり、判事だった父親の奨めで故郷の町に別れを告げた。そんな彼を呼び戻したのは乳母も同然の家政婦ハンナで、最近になってホッブス家の玄関に弟の骨が置かれるという怪事件が起きたためだった。彼を脅して利用しようとする保安官を逆に手玉に取り、オーレンは事件を調べ始めるが。
物語の面白さとミステリとしての興味という両方向のベクトルが存在するならば、前者に大きく傾いた作品だ。例えば、骨になった弟が夜ごとに戻ってくるという謎は、掴みとしてこそ魅力があるが、真相はやや尻すぼみだし、真犯人の隠し方にももう少し工夫がほしい。しかし一方で、物語ることにかけての作者の成長ぶりには目を瞠るものがあって、とりわけ百鬼夜行(まさに!)とでも言いたくなるような存在感を誇る登場人物たちが圧巻だ。一見奇矯な彼らの言動や行動が、やがて事件のベールを少しづつ剥いでいくあたりも見事で、オコンネルという作家のアクの強さが、物語世界を構築する肥沃な糧となっている。
[ミステリマガジン2010年12月号]

愛おしい骨 (創元推理文庫)

愛おしい骨 (創元推理文庫)