石が流す血/フランセス・ファイフィールド(ランダムハウス講談社文庫)

英国ミステリの伝統を継ぐ女性作家としては、P・D・ジェイムズやルース・レンデルの次の世代にあたるフランセス・ファイフィールドも、すでに六十歳を越え、ベテランの域にある。人間観察の濃やかな作風が読者を選ぶせいだろうか、ポケミスで出た『汚れなき女』以来、翻訳紹介がとだえていたが、十一年ぶりに届けられた『石が流す血』はCWA賞の最優秀長篇賞に輝いた二○○八年の最新作である。
冷酷非情な法廷戦術で法曹界にその名をはせる女性弁護士マリアン・シアラーが、高級ホテルのバルコニーから飛び降り、死亡した。目撃者の証言から事件性はなく、自殺と思われたが、動機は不明だった。遺言執行人のトーマスは、法廷弁護士でかつて故人の指導を受けたこともあるピーターを使って、彼女の死について調査を始める。一方、最後の依頼人で、女性を次々とひどい目に遭わせるサディストの男は、事件にまつわるマリアンの遺品に異様な執着を見せはじめた。何が鉄の女を死に追いやったのか、そしてその手がかりとなる品々は、いったいどこに?
ひとつの死がきっかけとなって、掘り起こされていく過去の物語だ。エゴや人間臭さをむき出しにする登場人物たちのぶつかり合いが、やがて過ぎ去った時間を揺り動かしながら、さまざまな人間模様を蘇えらせていく。やり手の女弁護士をめぐる「なぜ死んだか?」が、「どう生きたか?」という彼女の人生そのものの謎へと発展していくあたりがなんとも素晴らしい。読み応えたっぷりの展開の濃密さともども、まさに大人のミステリと呼ぶに相応しい。
[ミステリマガジン2010年1月号]

石が流す血 (ランダムハウス講談社文庫)

石が流す血 (ランダムハウス講談社文庫)