暗殺のジャムセッション/ロス・トーマス(ハヤカワ・ミステリ)

原著刊行から四十二年ぶり。ついにこの日が来たか、という感慨にしみじみと浸りたくなる、待ち焦がれたロス・トーマスの新訳だ。『暗殺のジャムセッション』は、エドガー賞の最優秀新人賞に輝いたデビュー作『冷戦交換ゲーム』の続編で、もちろんマッコークルとパディロの名コンビが再び読者の前に姿を現す。
ドイツでのスパイ騒動に決着をつけたマッコークルは、アメリカに連れ帰った恋人のフレドルとめでたく結婚し、〈マックの店〉で平和な日々を送っていた。しかし、かつての相棒パディロが無理やり請け負わされたアフリカ新興国国家元首暗殺計画の保険として、フレドルは誘拐されてしまう。パディロが暗殺を遂行すれば、妻は無事に戻すという犯人グループの言い分を信用できないマッコークルは、パディロとともに、名うてのカウンタースパイたちを雇い、手荒だが手の混んだ奪還計画を実行に移そうとするが。
作中、登場人物のひとりが主人公に向かって口にする台詞が、気が利いている。「あなた、お得意のトリッキーな作戦をしようとしているのね。そういうときは、たいてい誰かが怪我をしたり死んだりするわ」そう、これはカタストロフィーへと繋がる裏切りと騙しあいの物語なのだ。旺盛なパロディ精神と、冷戦時代を彷彿とさせる作者のシニカルな現実直視が見事に同居している。前作の後日談だが、独立した作品としての風格は十分。登場人物のひとりひとりに味があるし、一向に先の読めない酩酊感が相変わらず心地よい。
[ミステリマガジン2009年11月号]

暗殺のジャムセッション (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1827)

暗殺のジャムセッション (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1827)