嵐を走る者/T・ジェファーソン・パーカー(ハヤカワ文庫)

この作家らしい冴えがイマイチだった(とわたしは思っている)エドガー賞受賞作「カリフォルニア・ガール」、共感覚というアイデアを十分に活かせないまま終った「レッド・ボイス」と、個人的にはちょっと心配な作品が続いているここのとこのT・ジェファーソン・パーカー。ハードカバーから再び文庫へのシフトということもあって、恐る恐る手にとった『嵐を走る者』だが、うん、これは悪くない。かつては親友でありながら、交わることのない道を往くこととなった二人の男の確執のドラマがたおやかに語られていく。
犯罪小説やハードボイルドで鳴らした作者だけに、ついついミステリとしての物差しで計ってみたくなるが、本作の面白さは、かたやマフィアのボス、かたや元保安官補のボディガードという、ふたりの男が辿る数奇な人生の年代記にある。交わる度に火花を散らさざるをえない男同士の対極の生き方が鮮やかに描かれるのだ。序盤には、舞台となっているカリフォルニアの気候にまつわる意表をついた展開もあって、本作のユニークなサブテーマにもなっている。今後を模索するパーカーにとって、ひとつの転機になるかもしれない作品だと思う。
本の雑誌2009年3月号]

嵐を走る者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

嵐を走る者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)