ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女/スティーグ・ラーソン(早川書房)

英語圏のミステリといえば、まずはフランスってことになるんだろうが、それを僅差で追い、ときにリードを奪うこともあるのは北欧スウェーデンだろう。古くは「笑う警官」でエドガー賞をとったシューヴァル&ヴァールーがいたし、「誕生パーティの17人」とい作品が紹介されたこともある?スウェーデンのカー?ことヤーン・エクストレムや、最近じゃヘニング・マンケルの警察小説も高い評価を受けている。そしてここに、もうひとり、「ミレニアム」三部作のスティーグ・ラーソンである。
まずは、その第一部にあたる『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』に、驚かされる。自ら率いる雑誌〈ミレニアム〉の記事をめぐって、名誉毀損の有罪判決を受けたばかりのミカエルは、第一線を退いて久しい財界の大立者ヘンリック・ヴァンゲルから奇妙な調査を依頼される。彼の一族が居を構える小さな島から、四十年前にひとりの少女が忽然と姿を消した事件の真相を明らかにしてほしいというのだ。見返りとして提示された条件に心を動かされたミカエルは、エキセントリックだが調査にかけては凄腕の女性リスベットの助けを借りて、ヴァンゲル一族をめぐる過去へと分け入っていく。
社会派の幕開きから不可能犯罪の興味へとなだれ込んでいく物語導入部の流れが素晴らしい。ドラマチックでありながら、展開に無理がないし、登場人物のひとりひとりが精彩を放っているのもいい。密室状況からの消失というテーマは、やがて五世代にもわたる一族をめぐる謎へとスライドしていくのだが、一見すると複雑で頭が痛くなりそうな人間関係(家系図が壮観!)やエピソードが、実に手際よく料理されていく。やがて意味深なプロローグが意味するところが明らかになる展開も感動的で、謎解きの面白さと強力なサスペンスを堪能したあとに待ち受けるクライマックスのつるべ打ちまで、まさに巻を措く能わず。今年のベストテン上位は、間違いない作品だ。
[本の雑誌2009年2月号]

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下