タンゴステップ/ヘニング・マンケル(創元推理文庫)

ヘニング・マンケルは、CWA(英国推理作家協会)賞に輝いた「目くらましの道」を始めとするクルト・ヴァランダー警部でお馴染みだけれども、同じスウェーデンの警察小説ではあるが、『タンゴステップ』は、ノンシリーズの単発作品。北部の国境に近い森林地帯で起きた引退した警察官殺しを、元同僚が追う。
医者から癌の宣告を受け、自分を見失った主人公が自己を回復していく物語として、またヨーロッパ各国に今も暗い影をおとす過去の呪縛の物語としてなど、いくつかの読み方ができる小説だ。もちろん、警察小説としての面白さもあるのだが、犯人やその動機などに過度の期待は禁物で、むしろテーマの社会性とともに、二次大戦の戦後史や、南米とヨールッパを股にかけるスケールの大きさを楽しむべきだろう。事件解決後のささやかな後日談も鮮やかな印象を残す好作品である。
[本の雑誌2008年9月号]

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)