盗聴犯〜狙われたブローカー〜/アラン・マック&フェリックス・チョン監督(香・2011)

映画祭ではなぜか先に公開されたが、〈盗聴犯〜狙われたブローカー〜〉(2011)は、二年後に製作された同じ監督・脚本チームによる先の〈死のインサイダー取引〉(2009)の続編である。といっても、盗聴という手段が作中で重要な役割を果たすのと、主要な出演者が再び顔を揃えている点を除けば、両作品の間に具体的な物語の繋がりはない。やり手の株トレーダー、ラウ・チンワンは、ある時尾行を撒こうとして自動車事故を起こしてしまう。駆けつけた香港警察のルイス・クーは壊れた車から盗聴器を発見するが、本人は心当たりがないという。捜査を進めるうちに、刑事はトレーダーをつけまわす謎の元軍人ダニエル・ウーの存在に気づくが。
はたと膝を打ちたくなるのは、作中にくり返し引用される〈サムライ〉の映像である。監督・脚本のコンビは、ノワール映画の師としてメルヴィルに深いリスペクトを捧げていると思しい。前作に負けず劣らず、観る者をあっといわせるツイストが用意されているが、二作に共通する命をかけても家族を守ろうとする男たちの姿が心にしみる。
日本推理作家協会報2012年10月号]