彼の個人的な運命/フレッド・ヴァルガス(創元推理文庫)

英語圏のミステリ作家たちが脚光を浴びているが、忘れてはならない国がフランスだろう。英米を横目に、独自のミステリ観から名作の数々を生んできたこの国で、今シーンの先頭を走っているのが女性作家のフレッド・ヴァルガスである。三度にわたるCWA(英国推理作家協会)賞授賞のお墨付きは伊達じゃない。
最新刊の『彼の個人的な運命』(創元推理文庫)は、ヴァイオリン弾きの青年に容疑がかけられた連続殺人事件をめぐり、おなじみ元内務省調査員のケルヴェレールと三人の歴史学者たちが真相究明に奔走する。セイヤーズが現代のパリに蘇ったらこんな作品を書くに違いないと思わせる謎解きには、英国が恋した作家ヴァルガスならではのコクと旨味がある。
[波2012年9月号]

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)