鷲たちの盟約/アラン・グレン(新潮文庫)

かつてレン・デイトン(『SS-GB』)が、最近ではジョー・ウォルトンファージング三部作)が大胆な改変を試みた第二次世界大戦を挟んだ激動の歴史に、さらなる企みをもって挑んだフィクションが登場した。第三十二代アメリカ合衆国大統領ルーズベルトは、その就任直前に暗殺未遂事件に見舞われたが、アラン・グレンの『鷲たちの盟約(上・下)』(新潮文庫)は、その暗殺がもしも成功していたら、というイフの物語である。
ルーズベルトの死から十年、大恐慌を引き摺り、専制国家への道を歩む第二次大戦下のアメリカが舞台だ。ポーツマス市内の鉄道線路脇で身元不明の男の死体が発見された。市警の警部補サム・ミラーが捜査に乗りだすが、行く手にはなぜかFBIとドイツ領事館が立ちふさがる。キーワードは最近話題のポピュリズムで、ルーズベルトにかわるロング大統領は「誰もが王様」をスローガンに掲げながらも、独裁への道を歩み、欧州を席巻中のヒトラーと手を結ぼうとする。こうであったかもしれないもうひとつの歴史を背景に、その裏側に隠された驚きの真相と同時に主人公の再生も描かれる。この夏最大の話題作だろう。
[波2012年7月号]

鷲たちの盟約〈上〉 (新潮文庫)

鷲たちの盟約〈上〉 (新潮文庫)

鷲たちの盟約〈下〉 (新潮文庫)

鷲たちの盟約〈下〉 (新潮文庫)