別離/アスガー・ファルハディ監督(2012・義)


イランの映画監督アスガー・ファルハディには、先にミステリ的な手法が効果的だった『彼女が消えた浜辺』があったが、アカデミー賞外国語映画賞に輝いた『別離』は、前作を上回る出来映えといっていい。首都テヘランのアパートで暮らすペイマン・モアディとレイラ・ハタミの夫婦は、結婚十四年目。娘を伴っての海外移住を考えていたが、アルツハイマーに罹った父親をめぐって意見がぶつかり、別居することに。裁判での争いのさ中、父親の介護のために雇った女性が流産してしまうというという事件が起き、夫は胎児に対する殺人罪の容疑をかけられてしまう。
彼の国の法制度はわからないが、簡易裁判とでもいうような割と形式にとらわれない形で審理は進められていく。階級や貧富の差もある容疑者側と被害者側の両夫婦は真っ向から対立し、彼らを乗せた正義の天秤は右に傾いたかと思えば左に傾き、それぞれの言い分をめぐり状況は二転三転する。イランの国内情勢や、老親介護の問題、宗教上の戒律といった社会派の視点が次々浮き彫りにされていく中、やがて夫婦の争いとふたりの間で苦しむ娘の姿に再び焦点は合わされていく。ラストシーンで観客にも突きつけられる究極の選択の重みは、筆舌に尽くしがたい。けだし傑作だと思う。
日本推理作家協会報2012年7月号]
》》》公式サイト